ペットロスとの向き合い方|元動物病院スタッフが経験から伝えたいこと
「元気だったころのように、また笑える日は来るのだろうか」。
愛する子を見送ったあと、そんなふうに感じている方に、この記事を書いています。
わたしは動物病院で6年間、受付や診療補助として働いていました。獣医師ではありません。でも、たくさんの飼い主さんの、たくさんの別れに立ち会ってきました。そして2年前、自分自身も16歳の愛犬「チョコ」を見送り、ペットロスを経験しました。
その両方の立場から、いま辛いなかにいるあなたに、伝えたいことがあります。
わたしのペットロス
チョコを見送ったあと、わたしはしばらく、抜け殻のようでした。
朝、目が覚めると、足元にあの子の重みがない。それだけで涙が出ました。散歩の時間になると、体が勝手にリードを探してしまう。スーパーでドッグフードの棚の前を通れなくて、遠回りをしました。
「病院で働いていたのに、こんなに崩れるなんて」。自分を責めもしました。プロなら、もっと冷静に受け止められるはずだと。
でも、そうではなかった。知識があることと、悲しまないことは、まったく別なのだと思い知りました。
くわしくは うちの子が虹の橋を渡った日 に書きましたが、あの喪失感は、いまも言葉にしきれません。
だからこそ、いまのあなたの気持ちが、少しだけわかる気がするのです。
ペットロスは「病気」ではなく、自然な反応です
まず、いちばん伝えたいこと。
ペットロスは、心の病気ではありません。
大切な存在を失ったとき、深く悲しむのは、人としてごく自然な反応です。むしろ、それだけ深く愛していた証拠です。
いまや、ペットは大切な家族です。ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査」(2021年)によれば、犬の7歳以上のシニア期の割合は56.1%、猫は45.9%にのぼります。多くの家庭が、長く連れ添った家族を見送る時期を迎えているのです。
家族を亡くして悲しまない人は、いません。それと同じことです。
だから、「たかがペットで、こんなに落ち込むなんて」と、自分を責めないでください。あなたの悲しみは、正当なものです。
こんなサインが出たら(セルフチェックリスト)
とはいえ、自分の状態を、少し客観的に見ておくことも大切です。
わたしの経験も交えて、こんなサインが出ていないか、そっと確認してみてください。
- 食欲がなく、食事が喉を通らない日が続いている
- 眠れない、あるいは眠りすぎてしまう
- 涙が突然あふれて、止まらなくなる
- 何をしても楽しいと感じられない
- 「あのときこうしていれば」と、自分を責め続けてしまう
- 仕事や家事に、まったく集中できない
- 人と会ったり、話したりするのが億劫になった
- 頭痛や動悸など、体に不調が出てきた
いくつか当てはまっても、それ自体は異常なことではありません。悲しみのさなかでは、誰にでも起こりうることです。
ただ、こうした状態が 何週間も続き、日常生活が立ち行かない と感じるときは、あとで触れる「専門家に頼っていいライン」を思い出してください。
気持ちの波の5段階
悲しみには、波があります。
これは、精神科医のキューブラー・ロスが提唱した「死の受容の5段階」というモデルです。もともとは、人が自分の死や大切な人の死を受け入れていく過程を表したものですが、ペットロスにも重なる部分があると、わたし自身も感じました。
- 否認 ――「うそでしょう」「まだ信じられない」。現実を受け止めきれない段階です。
- 怒り ――「どうしてうちの子が」「なぜもっと早く気づけなかったのか」。やり場のない怒りが湧いてきます。
- 取引 ――「あのとき、ああしていれば」。もしもの世界を、何度も考えてしまいます。
- 抑うつ ――深い悲しみに沈み、何も手につかなくなる段階です。
- 受容 ――少しずつ、その子のいない日常を受け入れていく段階です。
大切なのは、この5段階は きれいに順番どおりには進まない ということ。行きつ戻りつしながら、ゆっくり進んでいきます。受容までたどり着いたと思っても、命日にまた抑うつに戻ることもあります。
それでいいのです。波があるのが、当たり前なのですから。
わたしが救われた7つのこと
ここからは、わたし自身が、ペットロスのなかで救われたことを、具体的にお伝えします。あなたに合うものが、ひとつでもあればうれしいです。
1. 「ちゃんと見送れた」という実感
これが、わたしの回復の土台になりました。最期までそばにいて、好きだった毛布でくるんで、家族でお別れの時間を持てたこと。「わたしにできることは、やりきった」。この感覚が、後悔の波が来るたびに、わたしを踏みとどまらせてくれました。見送り方に迷っている方には、後悔しないための見送りの選択肢 が、少しでも助けになればと思います。
2. 思い出を、かたちに残したこと
肉球のスタンプ、写真、遺骨を入れた小さなメモリアルグッズ。かたちがあると、いつでも「会いに行ける」気がしました。
3. 泣きたいだけ泣いたこと
涙を我慢しませんでした。泣くことは、心が悲しみを消化する作業なのだと、あとで知りました。
4. 気持ちを、書き出したこと
チョコへの手紙を書きました。「ありがとう」も「ごめんね」も、全部。言葉にすると、少しだけ心が軽くなりました。
5. 同じ経験をした人の言葉に触れたこと
わたしだけじゃない。そう思えたことが、大きな支えになりました。この記事も、そんな誰かのためにあります。
6. 残された子たちの存在
いま、わが家には柴犬の「そら」と、キジトラ猫の「もも」がいます。この子たちが、いつもどおりごはんを待っている。その日常が、わたしを現実につなぎとめてくれました。
7. 時間が経つのを、ただ待ったこと
無理に元気になろうとしないこと。時間は、思っているよりずっと、優しく効いてくれます。
周囲の人ができること
もし、あなたの大切な人がペットロスで苦しんでいるなら。
いちばん大切なのは、その悲しみを、否定しないこと です。
「たかがペットでしょう」「新しい子を飼えばいい」。よかれと思って言った言葉が、深く傷つけてしまうことがあります。病院の窓口でも、そうした言葉に傷ついた飼い主さんを、たくさん見てきました。
してあげられるのは、特別なことではありません。
- ただ、話を聞くこと
- 「悲しいよね」と、気持ちに寄り添うこと
- 亡くなった子の名前を、一緒に呼んであげること
- 急かさず、その人のペースを尊重すること
慰めようと、無理にアドバイスをしなくても大丈夫です。ただそばにいてくれる。それだけで、救われるものです。
専門家に頼っていいライン
最後に、これは真剣にお伝えしたいことです。
ペットロスの悲しみは自然なものですが、それが度を越えて長引くとき、心が発しているSOSかもしれません。
次のような状態が 2週間以上続く ときは、どうか一人で抱え込まないでください。
- 食事も睡眠も、まったくとれない
- 何日も、まったく起き上がれない
- 「消えてしまいたい」という気持ちが浮かぶ
- 日常生活が、完全に立ち行かなくなっている
こうしたときは、心療内科や精神科、あるいはグリーフケアの専門カウンセリングに、ためらわず頼ってください。
専門家に頼ることは、弱さではありません。骨折したら整形外科に行くのと、まったく同じことです。心が深く傷ついたなら、心の専門家を頼っていいのです。
あなたが、また穏やかに笑える日が来ることを、心から願っています。その日まで、どうか、自分にやさしくしてあげてください。
よくある質問
- ペットロスはどのくらい続きますか?
- 人によってまったく違います。数週間で落ち着く方もいれば、何か月も波が続く方もいます。長さで「正常・異常」を測るものではありません。わたしの場合も、ふとした瞬間に涙が出る時期が長く続きました。日常生活が長期間立ち行かないほど辛いときは、専門家に相談してください。
- 泣いてばかりで大丈夫でしょうか?
- 泣くことは、心が悲しみを処理している自然な反応です。無理に止める必要はありません。むしろ、感情を押し込めてしまうほうが、あとになって辛くなることもあります。ただし、眠れない・食べられない状態が続くときは、心療内科などに頼ってください。
- 新しい子を迎えるのは、亡くなった子に薄情でしょうか?
- 薄情ではありません。新しい子を迎えることと、前の子を愛し続けることは、まったく別のものです。ただ、迎えるタイミングに正解はありません。心が動いたときが、その人にとってのタイミングです。焦らなくて大丈夫です。